2.分散系レオロジー

  3.ジルコニアスラリーのレオロジー

 1996年   オーストラリアメルボルン大学 化学工学科
         D.V. Boger教授のもと
で行った研究
研究論文

  M. J. Solomon, T. Saeki, M. Wan, P. J. Scales, D. V. Boger, H. Usui
  Effect of Adsorbed Surfactants on the Rheology of Colloidal Zirconia
  Suspensions
  Langmuir, 15, 1, 20-26(1999).

背 景
メルボルン大学ではSuspension Rheologyの基礎研究として、ジルコニア粒子の水スラリーを対象とした実験を数多く行ってきている。ジルコニア粒子は球形に近く、表面状態も均一かつ安定であり、この分散系スラリーのレオロジーに及ぼすpHの影響やイオンの影響、濃度の変化を系統的に調査されている。レオロジーの変化は研究室で開発されたVane粘度計を使用し、降伏応力を測定することによって評価する。この方法は他の粘度計による方法よりもかなり簡単で、且つ感度よく粒子の分散、凝集状態を知る(マクロ的な)手段となっている。一方、ミクロ的な面からは、粒子の凝集、分散を考慮するため、AFM(原子間力顕微鏡)によって粒子の結合力を直接測定し、DLVO理論に適用するなど、世界最先端の研究を行っている。

概 要(化学工学会62年会,東京農工大で発表)

  「コロイド懸濁液の降伏応力におよぼす界面活性剤の影響」

1.緒 言  コロイド懸濁液のレオロジー特性は粒径分布、pH、イオン、界面活性剤の有無などによって大きく変化する。これらを系統的に研究し、レオロジーに及ぼす効果のメカニズムを明らかにすることは、実際の工業に有用な情報となる。本研究では基礎的な実験として、化学的に安定で、かつ形状が球形に近いジルコニア粒子を用いて高濃度懸濁液を調製し、2種類の界面活性剤が降伏応力に及ぼす効果を検討した。
2.実験方法  使用したジルコニア粒子(Z-tech, ICI Advanced Ceramics, Australia)は 90, 50, 10 % pass粒子径がそれぞれ0.26, 0.21,0.17 mmであり、BET表面積が15.1 m2/g、密度が5888 kg/m3であった。これを0.1Mのbackground電解質(KCl)を含んだMilli-Q waterと混合し、57 wt.%の懸濁液を調製した。界面活性剤としてDTAC, C12H25N(CH3)3+Cl-及びdodecylamine hydrochloride(以下、DAHCと呼ぶ), C12H25NH2H+Cl-を使用し、pH調整にはKOH, HClを用いた。2つの界面活性剤は親水基の構造が異なるアニオン系界面活性剤である。懸濁液のレオロジー特性を評価するために、vane粘度計1)を用い降伏応力を測定した。 
3.結果と考察  DTACを添加した懸濁液の降伏応力の測定結果をFig.1に示した。始めに界面活性剤を添加しない場合に注目すると、降伏値はpHが7〜8の間でピークを持ち、これよりアルカリ側、酸性側にいくに従って放物線状に減少した。DTACの添加によって降伏値は全pH領域にわたって10〜20%の増加を示している。Fig.2にDAHCを使用した時の降伏応力を示した。添加量が増すと降伏値のピーク値が増大し、0.2%の添加で無添加の約2倍となった。また、添加量の増加と共に降伏値のピークを示すpHがアルカリ側にシフトした。以上より、親水基が異なる界面活性剤が高濃度懸濁液の降伏値に全く異なった影響を及ぼすことが観察された。
この原因として、1)静電反発力、2)van der Waals引力、3)疎水力、4)界面活性剤ミセル構造、5)界面活性剤の吸着特性、6)発砲、等の影響が考えられた。1)、2)は界面動電現象に起因し、粒子の荷電状態を測定すれば、その影響を予測できる。そこでpHを8.5に固定し、2 Vol%の懸濁液に界面活性剤の濃度を変えて添加し、エレクトロアコウストサイザー(Matec MBS-8000)によってのゼータ電位を測定した。結果をFig.3に示す。これより2つの界面活性剤を0.2wt%添加した程度では、ジルコニア表面の電位は顕著な違いを示さないことが分かる。即ち、界面動電現象の観点から2つの界面活性剤の効果の違いは説明できない。次に5)について、仮に2つの界面活性剤が粒子に吸着した場合、形成される吸着層の厚さが大きく異なる場合、固体濃度が低くなれば吸着層の影響の違いが顕著でなくなることが予想される。そこで固体濃度を40〜65 wt%と変化させて降伏値を測定した。結果をFig.4に示す。これよりDTACは変化させた濃度範囲では常に無添加の降伏値と同程度であり、DAHCは常に高かった。よって現時点では吸着層厚さが降伏値の違いに影響しているとは言えない。 
4.結 言
・DTACは高濃度懸濁液の降伏値にほとんど影響しなかったが、DAHCの添加によって降伏値は2倍程度に増大した。
・2つの界面活性剤の効果の違いは、界面動電現象からは説明できない。また、両者の吸着層の厚さの違いも直接的には影響していないと考えられる。

参考文献 1)Q.D.Nguyen et.al.: J. Rheol.,27(1983)321-349.


  

Fig.1 DTACを添加した懸濁液の    Fig.2 DAHCを添加した懸濁液の
   降伏応力のpH依存性           降伏応力のpH依存性



Fig.3 粒子表面のゼータ電位に及ぼす
   界面活性剤の添加量の関係  



Fig.4 懸濁液の降伏応力の固体濃度依存性


トップ アイコン
戻る